Playback Designs DAC MPD-5Xと
cello Reference DACを聴いてみよう!
1990年代のMark Levinsonディレクションのcello DAコンバーターと
Andreas Kochデザインの2007年以降のPlayback Designs DAC MPD-5の違いはいかに?!
元演奏者で理想的なスタジオ・プロダクトを目指したマーク・レビンソンと、
生粋の技術者アンドレアス・コッチのDAC ICを排したディスクリート回路DAC。
評価軸で変わる2台のDAC。
Playback Designs DAC MPD-5のサウンド
一見、デスクトップ・コンピュータのような無味乾燥したデザインに感じるMPD-5ですが、よく見るとそのディテールは細やかにデザインされた筐体です。MPD-5のハイライトはDAC ICを使用しないPDFAS回路(ディスクリート回路&独自プログラム)でD/A変換するチャンレンジングな仕様。
しかもこの個体は2015年に世界で25台発売のMPS-5 LTDに採用された、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)のクロックへ変更された個体です(2019年に整備の際に変更)。
Playback DesignsのWEBサイトによると、MEMSクロックは通常の水晶発振クロック以上の衝撃や振動等の外部要因に対する耐久性の向上に加え、電気的ノイズの多い条件下でも高い精度を持ち、更なる高音質化を実現しています。とのこと。さらに電源部もUPグレードされた個体です。
NAGRAのHD DACのDA変換部やクロックもアンドレアス・コッチが開発に深く携わっています。
Playback Designs DAC MPD-5はサウンドステージが広く、稠密な滑らかなさが第一印象。力感やパワフルさなどはあまり感じさせないサウンドです。シンフォニーのソプラノ(マーラー4番4楽章など)などもピンポイントな定位で高さも奥行きも感じるものです。弦楽器の人数もわかるようなパース。
MPD-5はおそらく、いい仕事がなされた録音~マスタリング盤やファイルが最適に、正確に再生されるものだと思います。そして一般的にも評価が高いDACではないかと思います。私的な理想を言えば、このサウンドに力強さや芯みたいなものが感じられると好みでしょか。
cello R-DAC のサウンド
ここ数年、Audio Dripperでお客様からいい評価を得ているDAコンバーターがcello R-DAC Referenceです。20年前だから古いかどうかは現代機と一緒に聴くとその辺りのポジションがわかります。
cello R-DAC Referenceの良さはやはりデジタルらしくない音像の彫りや躍動感でしょうか。一聴celloっぽい個性を感じますが、声の太さ強さや艶やかさはR-DACならではのサウンドかと思います。相反しますが気品があり凛とした空気感が漂うのもR-DACです。
今回比較したPlayback Designs DAC MPD-5では感じないエネルギー密度があります。オペラなどで4人が歌いまわしをする時の濃厚なスリリングなリアリズムや立ち位置などはR-DACに良さがあります。その分サウンドステージなどのパースペクティブな正確性は気になりません(逆に言えば乏しいのかもしれません)。
この2台の面白いところは、Playback Designs DAC MPD-5のDA変換部が電子部品でディスクリート回路で組んであること。cello R-DAC Referenceは出力部分がcello AUDIO SUITEと同様のP301回路であるところです。こだわる部分が異なる点ですね。
定価200万円overの、2台のDAコンバーター。
Playback Designs DAC MPD-5は音楽をある種正確に俯瞰する感じかなと思います。サウンドの質感は独特で、他のブランドになりますがAyreのプリアンプKX-RやパワーアンプのMX-Rなどにも似ているかもしれません。cello R-DAC Referenceはcello Referenceシリーズの系統。Mark Levinsonのサウンドです。高いゲインでテンションが高いサウンドで音楽の内側へアプローチする感覚(聴き手によって変わるものだと思いますが)。
この2台を聴いて甲乙や順位はありません。聴く人によって、聴き方によって音の個性の違いがあるだけだと思います。贅沢が許されるならこの2台があれば、しばらくは他のDAコンバーターは要らない感じかもしれません。贅沢ですね^^
20数年前のDACと2007年以降の384kHz/24bit までのデータを扱えるDAC。おそらく両機の大きなちがいはポールブレイやコルトレーンなどと演奏した事もある元演奏者がディレクションしたcello R-DAC Referenceと、過去多くのDACやデジタル技術を理解したデジタル技術者の違いがあるのかなと思います。
両機には視点と表現野の差異があり、時間経過による技術の蓄積量も異なります。新しいものを売るには物語(数値)が必要だから企業や売り手は小さな進化を大きく表現し、価値を高めようとするものですが、そもそも起点が異なるところに個性が宿るようですね。
この両機に新しいや古いという単純な道理は当てはまりません。雑誌に限らずセールスレビュー的には必ず新品が良くなってるらしいが、昭和の高度成長期じゃあるまいし、世の中そんな単純な幻想で成り立ってないと子供でも知ってる昨今だと思うけど……良くなる部分があれば失われる部分もありながら、いずれ理想へと向かうと思いますがその中では淘汰され消えていくものも多数。それでも底上げされ良くなることを信じる、のかな?
まあ、聴き手の聴き方や音楽への造詣、楽器を嗜むか否かなどでも変わってくるはずです。音だけに焦点を当てても同様。そもそも表現する手法や焦点が異なっているから、評価軸で変わるわけです。優劣がある部分もあればその逆もあり。人生みたいなものです。
デジタル機器として10年後どうなっているか楽しみな2台です。